読書記録。
願い事は必ずかなう。その言葉通り、彼女は奨学金を見つけ、英国オックスフォードへと旅立った。オックスフォードの頑固で真面目な教授、勉強熱心な学生たちと共に講義を受講し、芸術とは、哲学とは、文化とは、についてどう思考すれば良いのか(学問とは、問いについて考える方法を学ぶことであって、その答えを教えてくれるものではない)、自分の人生でなすべきことは何か、じっくりと考えている。
彼女の筆致はとてもきれいだ。淡い優しい色彩で描かれた物語を読んでいるよう。それでいてオックスフォードの灰色の佇まいが鮮やかに思い浮かばれるから見事だ。きらきらと光る夏の日はもちろん、鈍色の空がずっと遠くまで続く雨の日でも、彼女の生活は発見と、思索と、初めてのものに驚き喜ぶ少女のような可憐さに満ちている。
彼女の本職は絵描きだが、その経歴は変化に富んでいる。30歳頃までデザイナーとして会社員をしていたが、自分が本当にしたいことは絵を描くことだと気がつき、一念発起して仕事を辞め、国内外の美術館を巡る旅に出たあと、山にこもって絵を描こうとした。印象に残っているのは、彼女は仕事で毎日のように絵を描いていたのに、ふとそれがなくなって、100%自分のために絵が描けるようになったとき、自分はなにが描きたいのかさっぱりわからなくなったということだ。仕事で必要な課題をこなすだけでは、主体的に何かをしたいと思うことが難しくなるらしい。
天からの贈り物と彼女も自認するオックスフォードでの学びが、細かく丁寧に、慈しみをもって綴られている。なんて充実した留学生活だろう。彼女のために「準客員研究員」などという肩書きを「でっち上げ」、彼女が自由に講義聴講と図書館巡りができるよう計らってくれた学長の言葉「我々のようなものに存在意義があるとしたら、それはあなたのような人の役に立つためですよ」、それにオックスフォードの学問に対する姿勢がよく現れている。
姿勢を正して、本を読んで、物事について考えて、世界を広く深い目で見つめなければ、と思わせてくれる本だった。久しぶりに、二回通して読んで、良かったところを書き写しまでした一冊。
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