心理士・東畑開人さんの本にハマっている。
こちらは文春に週刊連載されたエッセイで、1話4-5ページで完結しているので非常に読みやすい。
軽妙な筆致で、ユーモアがちりばめられ、かつ、心理士の仕事で垣間見える人々の人生についても考えさせられる、読みだしたらページをめくる手が止まらない一冊。
会わないとネガティブな想像が過剰に大きくなる
連載が始まったのはコロナ禍が始まったばかりの時だったから、リモート期間が明けて大学で再び対面の授業になったとき、憂鬱になるという話も書かれていた。それは、休職した後に職場へ戻る時や、長い間学校を休んでいて久しぶりに行くときも不安になるのと同じで、対面で過ごしていなかった分、相手や社会が自分の想像の中だけでどんどん恐ろしい存在になっていくから、だそう。
他者に触れ合わず自分一人で悶々と考えていると、どうしても悪い方に想像がいきがちだし、他者が自分の悪口を言っているのではないかとか、自分のことを嫌っているのではないかなどと想像する。
でも、実際に行って会ってみると、何事もなかったかのように話せる、というのはよくある。直に会うと、つい平和的な付き合いをしてしまうのが人間だからである。だから、怖くても、不安でも、いや、不安だからこそ、実際に会ってみた方がいい、という時もある。大事なことを伝える時は対面が良いというのももちろんあるし、普段の生活でも、やはり対面やせめて肉声が、「相手も同じ人間である。それほど脅威ではない」と思える上で大事だ。
そういえば、長い間会っていなかった友人に久しぶりに会うときはやや緊張するけど、会ってみたら何事もなく、変わらず楽しい時間を過ごせた、なんてこともよくある。そういう現象を言語化、理由まで説明してもらえてなんか人生の智慧が増えた気がする。
その他にも面白いネタがたくさん
・クリスマス時期のエッセイで「紙を崇めよ」も面白かったな。宗教行事とは全然関係なく、「手書きの手紙を送るのは素晴らしいメッセージとなる、メールでは出ない味わいや真心が伝わる」のような感じで大真面目に「紙」を礼賛している。私も「紙」の力を信奉しているので気持ちはよく分かる。手書きの手紙を送るのも楽しいし、もらう喜びは何者にも代えがたい。
・このエッセイは心理学の研究家の東畑さんが書いたお堅い本というよりも、心理士ならではの高い分析力を自分にも応用して自分の胸中を綴った手記のような感じがする。なので、より個人的な部分が垣間見えたのがまた面白かった。
・心理の大学院で、東畑さん含め大学院生3人もが野球部の補欠だったというお話も面白かった。「心理士はメインプレイヤーではなく、誰かの人生に伴走する存在、まさに補欠魂ではないか」ということだ。確かに!
・何かあると、不安や悪い想像で頭がいっぱいになってそれがぐるぐるする、というのも、心理士さんでもそうなるのかー、じゃあ一般人はそうなっても仕方ないな、と思えるし…。
・でも東畑さんが喫煙者なのは意外だったな。それも大学で「同じサークルのイケメンがカッコよく吸っていたのを見て、俺も煙草を吸えばカッコよくなれるかなと思ったのがきっかけ」だそうで……。なんかイメージががらっと変わった。人間味をふんだんに出しているけども。禁煙して長生きしてほしい。
いろいろな職業人のエッセイ希望!
多分、どんな職業の人でも、こういうエッセイを書いたら面白い読み物になると思う。その職業の人だからこそ分かること、経験できること。そういうものを、いろいろな職業の人に書いてほしい。
というか、ひょっとして豆の研究でもそういうのが書けるのではないだろうか。(野心!) 物語をより面白くするのは人と人との関わりで、モノ相手の仕事である研究職のエッセイが、心理士さんのエッセイほど面白くなる保証はないのだが、それでも、その職業の人の日常はこんな感じで、毎日こんなことを考えている、というような話を書くだけできっと興味深いのではないだろうかと思う。

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