11.16.2024

足立美術館

足立全康という、明治初期から大正にかけて一財産築いた地元の実業家が建てた美術館。生家があった場所は、現在の足立美術館の所在地。

10代の頃から、商売の妙味を知る。うまくいった事業もそうでない事業もあったけど、結果的に長く続けていてこんな美術館をまるごと建てるまでに。田舎ののどかな土地のど真ん中に突如として現れる足立美術館。庭園は立派だった。さすが、この土地の広いところでないとこの規模は難しいだろう…。横山大観の『那智の滝』を模して人工の滝まで作った。滝って人工的に造れるものなのか…。実業家の意気を感じる…。






全康氏、最初の結婚は無理やり別れさせられて、仲が良かっただけにショックを受ける。。再婚し、息子が生まれるも、息子が十歳の時に妻他界。そしてまた再婚する。で、その妻にも老後に先立たれる。まあ80-90歳の時だから、どちらが先でもおかしくはないんだけども。何か…人との別れをたくさん経験してるんだなと思った。そして、そういう時、自分が持っているお金はどんな風に見えたのだろう。とか。一代でこれだけの財を築くって、田舎のムラ社会からどんな感じで受け止められていたのだろうか、とか。

ともかくも、美術館2軒行ったくらいの見応えがあった〜!

近代日本画(明治以降)と、現代画。

本館にある近代日本画は、横山大観を目玉に。大観は岡倉天心の遺志を継いで、日本美術院の復興に努めた。2 m ✕ 4 m の屏風 ✕ 2枚の紅葉図は迫力も色味も素晴らしく見事。群青色の背景に、明るい紅葉や焼けた朱色を使った枯れた紅葉など多様な葉っぱが巨木の上に広がる。プラチナが散りばめられていて、きらきらと光る水しぶきとなっている。

横山大観は太平洋戦争前、自分の画歴50周年を記念して、海山十題、合計20作品を描いた。話題になり、当時としては破格で売れた。それらを売ったお金は全額陸軍と海軍に寄付し、それでもって、軍部は戦艦「大観」を建造したらしい。すごい時代…。この頃に海のテーマが多くなってきたのは、海洋国日本の意識が高まってきたからだろうとの見方もある。芸術家が政治活動というか、国家のイデオロギーに加担するとは…。「絵は心で描く」と、言っていたそうだが、軍部の情報操作のままに愛国心を多分にかきたてられた心だったのか、戦時中となれば一番に不要なものとされる芸術というものを、彼なりに守りたい心だったのか、わからないが…。 加えて、軍人学校に掲示して士気高揚を図るためと依頼され、朝日と富士の絵を描いたそうだ。時代の趨勢には逆らえない、職業画家とはそういうものかもしれない。

現代画は新館に。美術院展への出品作の中から、足立美術館賞の受賞作品を選定と同時に買い取っていて、その作品を展示している。作者による作品紹介が書かれていて、それを読みながら鑑賞できるのが素晴らしいと思った! 現代絵画ならでは。現代絵画には馴染みがなかったしよくわからないなと思っていたけど、作者の解説があると一段深く味わえる。抽象画ではないので、描かれているものも幾分分かりやすいのだと思う。

バリ島の火葬の絵のテーマとして、「バリの人々にとっては死ぬことは、苦しい現世を離れて神々のもとに行ける喜ばしいことだから、お葬式は絢爛豪華」とか、一見部屋着を着て本に囲まれているが細々といろんなモチーフが描かれている絵「理(ことわり)」、について、「理とは、法則、規則、など堅苦しいもの+覚悟がスパイス。『見た人の記憶になんとなく残ってずっと考えさせる、人の時間をそれとなく盗む絵を描きたい』…と絵の構想を練りながら、何十時間も時間を盗まれてしまったことに気づくのである」というオチ付き。人の時間を盗む絵を描きたいというのは大胆な表現だけれど、それほどに人を惹きつける絵を描きたいということか…。

「人に〜させたい」という目的で描くのが、美術の在り方なのか?と思うと、疑問もある。ただ、作家が完全に自分の世界にこもって、「この題材を描きたい、私がやりたいように。見ても見なくてもどうぞ」というのも違う気がするし。

足立美術館賞の絵は全て大きい!2 m x 3 m は優にありそう… 大きな絵はそれだけで見応えがあるし、この大きさでデッサンぐるいもなく成立しているだけでそもそも素晴らしい…のに、その上にメッセージ性があって味わえる。現代絵画も親しみというか好きな部分が見つかってきたぞ?という心境です。

おまけに新館2階では、「人々を魅了する樹」という展示まで。木々を主役にした大きな絵画がたくさんで迫力満点で、 奥入瀬の渓流の波しぶきを描いた作品、5月の青森の、まだ肌寒い森の神秘的なひっそりとした雰囲気を描いた作品とか。藤の大樹の、大きな大きな根の絵とか。幻想的な藤の花の美しさ、可憐さと、対照的な、根っこのゴツゴツさ、複雑に絡み合って、水や養分をじっくり吸い上げて大樹となる。花咲くまで待つことの大事さを伝える。とあり、ほおお…と。樹特集も大変佳きでした…。

【今後のための備忘録】コインが返ってくるコインロッカーもあり、荷物を持っていっても大丈夫!ただ、入口と出口が違うので、入口に戻ってロッカーから荷物を取るのを忘れずに! 帰りの安来駅行のシャトルバスの整理券を取っておくこと! お土産物屋さんを見る時間とか、併設のカフェで昼食をとる時間なども考えると4時間あれば十分かな?公式HPにはゆっくり見たければ2時間、とあったけど、2時間じゃ全部の展示とその解説を見きれないと思いますーー💦




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