5.22.2016

「目からハム」「イタリア的考え方」



目から鱗が落ちた、と同じ意味で、イタリアでは目からハムが落ちた、というらしい。そして、物事がよく見えていない人のことを「目にハムが入っている」というそう。
日本人もイタリア人も、鱗やハムを目に入れる特殊能力を持つらしい…。

著者の田丸公美子さんは、イタリア語同時通訳。
陽気で楽しいイタリア人との軽妙なやりとりや、文化の違いを面白おかしくつづっている。
また、同時通訳ならではの修羅場なんかも。たとえば、知らない単語が出てきたら、交代で行う相方通訳にマイクを投げる!しかしその人も知らない単語だったので瞬時にマイクが投げ返される!そうしている間にも会議は進んでいくので、何事もなかったかのように次の文をまた訳し始める…

一瞬が勝負の同時通訳の世界。「逐次」通訳ではない。聞きながら、訳して日本語を組み立てつつ話し、次の文も聞き逃さない…という、脳みそが3回路くらいあるのではないかと思う離れ業。実際、心拍数は普段よりずっと高く、集中力が必要とされるので20分くらいで交代するのだとか。逐次でも大変なのに…信じがたい。訓練のたまものだと思う。

通訳の訓練学校にお試しで行ったことがあるが、会議でよく出るフレーズをとりあえず丸暗記。その表現が出たら、反射的に訳文が出るよう訓練していた。専門用語やらよく使われる単語やらを確実に訳せるようにしておくのも大切だ。田丸さんも事前勉強や予習は欠かさない。同時通訳ブースで辞書を繰っているようでは、確実に間にあわない。

あと面白いのは、2つの言語を話せることと、通訳できることは、全く別だということ。それらが伝える意味だけではなく、文化的背景、慣習、考え方なども分かっていなければ、適切な訳は出てこない。場合によっては、そんなことわざわざ言う必要はない、ということだってある。「どうぞごゆっくりご歓談ください」というのは、イタリア人にとっては、「なぜそんなことを指示されなければいけないんだ? 我々は歓談しにここに来ているのは明白なのに」と首を傾げるフレーズであるらしい。とても興味深い。

イタリアについて、イタリア語について、そして同時通訳の面白さについて気軽に読める作品。加えて著者の筆致も軽妙洒脱。笑い転げながらすらすら読めてしまう。

なお、このようなよくあるイタリア人の「イメージ」よりももっと深くイタリアについて知りたい場合は、海外滞在歴の長いイタリア人学者の書いた真面目な「ただ陽気なだけではないイタリアの文化的考察」のような本もあるので併せて読むとより興味深い。イタリア人といってもいろいろな人がいて、地方によって考え方が違ったり、年代によっても違うなど、一枚岩でないイタリアが見えてくる。

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