3.21.2010

食料自給率

食料自給率をカロリーベースで50%に改善するという政府目標が発表された。(日本経済新聞、3月20日)

 まず考慮すべきなのが、カロリーベースの食料自給率にどの程度意味があるのか、それは本当に低いのかということである。カロリーベースの自給率は、国内生産カロリー/国内消費カロリーX100で表されている。国内消費カロリーは、国内供給カロリー、輸入供給カロリー、廃棄食品カロリーの総和であり、摂取カロリーではない。つまり廃棄カロリーを減少させれば自給率は向上する。

 また、食物のカロリーは一様でない。野菜や果実に比べ、穀物や畜産物、油脂類のカロリーが高いため、カロリーベースの自給率はこれらカロリーの高い食品の影響を強く受ける。そのため生産高ベースの食糧自給率も算出されており、日本は70%である。

 問題なのは、農業者の高齢化と、食と農の乖離、そして大量の食品廃棄であると考える。農業者のうち60%以上が65歳以上であるという。農家の所得が低いことが若者離れの原因となっており、過疎化と表裏一体をなしている。農業者の所得は時給に直すとわずか231円である。しかし、民主党の掲げるような赤字補填政策では、生産を増やそうと努力する農家の気力をそぐことになるだろう。日本には赤字農家があふれ、生産回復とはまったく逆の結果に終わるかもしれない。

 農家の厳しい状況を、都会に住む消費者が意識する機会がほとんどないのも、安価な輸入食品が好まれる一因であろうと考えられる。食の外部化、サービス化によって均一、安価、大量の食材が求められるようになり、輸入品が国産品に取って代わるようになった。それは、安い物を求める消費者に原因がある。安い物を求める消費者は、日本の農業者の苦労を省みることはない。食べ物とはコンビニエンスストアやレストランでいつでも手に入るものであり、それが土の上で手間をかけて生産されているとか、生きた動物であったことなどが意識に上ることはめったにない。

 一方で、農産物直売所の数がコンビニエンスストア最大手の店舗数を上回ったとの記事もあった。輸送コストが抑えられることから、安い輸入品とも競合できる価格で農産物を販売しているという。消費者と生産者の距離がきわめて近いため、国産の食材を選ぶことの意義を消費者にわかってもらえるのではないだろうか。

 食物は年間900万トンが廃棄されており、これは国内の穀物総生産量とほぼ等しい。このような事実は看過してよいものではなく、自給率を論ずるならば第一に改善すべきである。世界の飢餓人口は9億人といわれるいっぽうで、世界で生産される食料の合計は地球の総人口をゆうに養えるものであるといわれている。つまり分配の問題なのである。そして、輸入量と廃棄量の数値は、日本が食糧を必要以上に集めている国だということを示唆している。宴会や宿泊施設などで大量に残されている食事を減少させる努力もおこなわなければならない。それに対しても、消費者に期待される役割は大きい。食事は豪勢であまるほどなのが良いという考えを改め、適切な量を提供する施設を選んで利用することによって、それを支持することができる。食料自給率を問題として提起するのならば、その改善は、農業者だけの課題ではなく、農産物を消費する側の人々も関わらなければならないということを消費者に啓発していくのも、政府の役割である。

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